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教員・研究紹介

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植物と共進化してきた真菌類の生き様を理解する

資源循環学廊 生産環境微生物学論分野
田中千尋 教授

農林生産環境の生態系においては、多様な微生物が生育しており、微生物間はもちろん、宿主植物、あるいは土壌要素などの非生物環境とも、複雑な相互作用を営み、その生態系に影響を及ぼしています。しかし、その微生物相や相互作用について十分明らかにされているわけでありません。私の所属する分野では、農林環境における微生物相ならびにそれら微生物種の特性や生理機能の解明を、土壌要素、植物要素の研究と合わせて展開することを目指しています。

私は、このような微生物の中でも、真菌類、いわゆる「かび」や「きのこ」、「酵母」を研究対象としています。真菌類は、地球上に150万種以上存在すると考えられていて、最も「成功」した生物分類群の一つと言われています。真菌類は、現在の陸上生態系において、おもに植物遺体の分解者として地球規模の物質循環に中心的な役割を果たしていますが、その祖先型は、水中で有機基質に付着して生活するような単細胞あるいは数細胞性の生物です。そのような生物が、陸上生態系の物質循環を担うメジャープレーヤーとなった端緒は、真菌類の進化過程において、真菌細胞が菌糸と呼ばれる糸状の形態をとり、その菌糸の成長メカニズムを用いて、固体の有機基質内部に侵入できるようになったからだと考えられています。一方で、この能力は、真菌類を他の多細胞生物、特に植物の病原体(寄生者)へ進化させたと考えられています。しかし、寄生者となった真菌類から宿主と相利共生的な関係をもつものも現れてきました。植物根に侵入し光合成産物を利用するが、根毛の代わりに無機塩や水の吸収を行う菌根菌の出現です。この菌根共生が植物の陸地適応をもたらし、植物の陸上における繁栄は、同時に陸上植物の分解者、寄生者、共生者として真菌類の繁栄と多様化をもたらしたと考えられています。しかし、真菌類にどれだけの種がいるのか,正確には把握できていません。多くの菌類の様相は顕微鏡レベルでしか観察できず、また、諸性質は環境から分離培養しないとなかなか精査できないからです。近年の環境DNA分析法の発達により、分離培養せずに真菌を含む微生物相の多様性を明らかにできるようになってきましたが、そのDNA 情報を持っている真菌種の実体がどのようなものであるかについては,地道に分離培養しその諸性質を調べる必要があります。このような研究は、多様な生態戦略に応じて体制や生理機構を発達させてきた真菌類の生き様の基本原理と多様性を詳らかにするとともに、生物合理的な応用技術へ繋げることができます。例えば、菌糸態をとる糸状菌の多くで進化的に保存されている浸透圧ストレス応答シグナル伝達系は環境負荷の低い⾼選択的殺菌剤の作⽤点として注目されています。また、固体への付着・侵⼊機構の解明は、植物保護だけでなく、発酵産業におけるタンク培養法の効率化や居住環境におけるかびの制御法の観点からも注目されています。

持続可能性を技術社会的システムの観点から考える

地球益学廊 環境教育論分野
トレンチャー・グレゴリー 准教授

技術社会的システムとは何か。なぜ重要なのか

持続可能な社会を構築する上で、新しい技術、物質、エネルギー、産業活動を開発・普及することが急務となっています。多くの場合、新しいモノは既に存在しますが普及しない或いは普及が遅いとの問題があります。これは何故でしょうか。これを理解するに当たり、多角的な視点に立ち、技術を社会システムの一部として見なすことが重要です。あらゆる「社会技術的システム」は、多種多様な要素で構成されており、その中で社会的要素(政策や、法律、制度設計、ビジネスモデル、資金)、人の要素(労働者や、企業、政治家、政策立案者)、物質の要素(部品や、原材料、インフラ)などが複雑に絡み合って、技術の生産および利用に影響を与えます。

また、自然界と同様に、技術社会的システムが目指すことは自己破滅ではなく、システム全体の安定化と継続化であり、個々の部分がそのために相互作用し、共進化します。

このように「技術」をより広い社会技術的システムの一部として見ていると、持続可能な社会への転換を加速させる上で、政策にとっても研究にとってもあらゆる示唆を得ることができます。第一に、持続可能な技術の生産・普及拡大を促進したい場合は、それに影響を与える社会、人、モノを考慮に入れる必要があります。例えば、脱炭素技術の鍵となる再生可能エネルギーと電動車(燃料電池自動車・電気自動車)の普及拡大を加速させることが政策の目的とすれば、「自動車」に加えてシステム全体を電動化の方向に向かわせなければなりません。したがって、目的は単なる技術の普及というよりシステム変革となります。第二に、システムは慣性が影響するため、変化が簡単には生じません。さらには、特定の方向性に向かう勢いが固定化してしまうという「経路依存性」が変革を妨げがちです。このため、自動車や火力発電所、原子力発電所などという技術を取り巻く大規模かつ頑丈な社会技術的システムは、変革を起こそうとする戦略に対して抵抗することがあります。第三に、研究者も政策立案者も新しい技術の創出を支援することに焦点を当てがちです。しかし、社会技術的システムを転換させるに当たり、持続可能性を阻害する技術、物質、産業活動の長期的な生産・利用が固定化されてしまうため、新しいモノの開発・普及を促進しつつ、既存のモノの段階的廃止(フェーズアウト)を舵取ることも重要です。

研究課題

私の研究室では、上述のような観点から持続可能性への転換を阻む社会技術的システムのメカニズム、および、あらゆる脱炭素技術の生産・普及拡大を加速させるための政策に関して取り組んでいます。よって、技術とそれを取り巻く技術社会的システム、技術の創出と破壊、これらの全ての課題を研究しています。その際、エネルギー政策、気候変動のガバナンス、サステナビリティ・トランジション、政治学、人文地理学、イノベーション論など、様々な学問領域から示唆を得て学際的なアプローチを採用しています。また、理論も実証研究も同様に重視しています。具体的には、複雑な社会技術的なシステムを解明するために、上述のような分野から適切な理論を統合し、新規性のある分析的枠組を構築します。その上で、実社会のあらゆるケース(例えば、バンコクにおける乗用ガソリン車台数の増加や、日本・中国・ドイツにおける燃料電池自動車・電気自動車の生産・普及、石炭火力への投融資)を実証的に分析するために、その分析的枠組を活用して、社会技術的システムのあらゆる観点から持続可能性への転換のプロセスを検討します。

近代日本の芸術と社会に関する研究

美術史・文化論分野
高階 絵里加 教授

現在の私のおもな関心は、近代の日本を中心とする芸術の歴史と社会に関する研究にあります。美術作品の歴史的意義を創造と受容の諸相から考えるということですが、具体的には実際の芸術作品を研究対象として、その造形表現に歴史・社会・人間がどのようにあらわれているのかを考察します。作品はいかなる制作環境のもとで生み出されるのか、その表現にはいかなる意味と歴史的意義があるのか、またどのような社会環境の中で受け止められ、さらにはいかに社会に影響を与えるのか、といった問題を、歴史的文脈の中でさまざまな作品と資料や文献に基づいて考えてゆく研究になります。

西洋との出会いと日本の美意識

研究課題としては、まず、おもに19-20世紀の日本を対象に、歴史的背景を視野に入れ、特定の芸術作品の表現と意味を明らかにしようと試みることがあります。この時期の日本は西洋との本格的な交流が始まり、新しい技法やものの見方が導入されるなか、近代化と伝統的な美意識のはざまで芸術に関する制度や教育も揺れ動きました。このような変化の中で生み出された芸術作品を通して、日本人の眼に映じた人と自然のすがた、風景や生き物とのかかわり、自然に寄せてきた心についても、考えてゆきたいと思っています。そこには、江戸時代以前からつちかわれてきたものの見方や表現方法、美に対する意識が、西洋との出会いを通じて豊かな変容を遂げる様相が見いだされると思われるからです。この課題における近年の研究としては、1937年のパリで開催された国際博覧会(万国博覧会)の日本の展示と日本館に関する研究があります。19世紀の博覧会においては、日本の陶磁器や漆器、刺繍や織物などがいわゆる「日本趣味」の美術品として欧米で高く評価されましたが、20世紀にはその流行も下火になります。代わって1937年にフランスが日本に求めた芸術上のインスピレーションとは、伝統の力を保ちつつも西洋の文化や技術を取り入れ新たな芸術を生み出すそのやり方であり、とりわけ日本館の建物はその期待に応えたといえます。

芸術作品と社会的環境

また、芸術と社会の関係について、近代における制作・流通・展示等の芸術を取り巻く社会的環境の変化に着目しつつ分析することも研究課題としています。明治以降西洋文明の影響のもとに生まれた美術館や展覧会といった芸術受容の場について、そこでどのように芸術が社会に発信され、人々に受容されたのか、またそれは芸術家や作品そのものにどのような変化をもたらしたのか、その実態を資料にもとづいてできる限り明らかにし、芸術が社会に、また人間の心にいかにはたらきかけるのかを、歴史を通して考えます。この課題に関する近年の研究としては、初期の文部省美術展覧会と社会に関する研究があります。国が主催する初の総合的な美術展覧会として1907(明治40)年に開設された文部省美術展覧会について、画家や彫刻家たちの新たな挑戦の場となったこの展覧会における展示状況、観衆の様相、メディアのはたらき、芸術家の動向などに着目し、20世紀初頭の日本における芸術と社会の関係を考えています。

隠された物性探索からの新元素材料創出

地球親和技術学廊 元素材料化学論分野
田中 一生 教授

元素を駆使した新素材創出

有機・高分子材料は我々の身近なところから最先端の素子にいたるまで幅広く実用化されています。しかし、周りにある材料を構成している元素は、炭素や水素、酸素、窒素といった、周期表上のごく一部の種類に限られています。これまで有機材料にはあまり使われてこなかった元素を活用すれば、元素の特徴を反映した電子・光・触媒機能、分子認識能などの新しい機能を持った素材の創出が期待できます。そして、マテリアル・バイオの両面で次世代の機能性材料開発ができるとともに、未知の元素の「顔」を見付けることにつながるかもしれません。我々は一人ひとりの自由な発想のもと、それぞれが元素を活用したオリジナルの物質を生み出すことを目的として、精力的に研究に取り組んでいます。

例えば、一般的な有機発光色素はフィルムでは濃度消光により発光しません。最近、ある種の元素錯体や元素含有高分子が、逆にフィルムなど固体で強く発光することや刺激に応答して発光色が変化することを見出しました。そして、元素が発光や刺激応答性に重要な役割を担っていることを明らかとしました。これらの機能を利用することで、これまで検知できなかった極微量の有害物質を検知することや、ウェアラブルセンサーという皮膚上でリアルタイムに体調や疾病を検知することにつながる物質を得ることができました。

また、ポリマーとガラスを分子レベルで均一に混合すると、有機-無機ハイブリッド材料が得られ、ポリマーの柔軟性と無機成分の耐久性を併せ持った材料となります。さらにシリカのキューブ状分子を用いるとデザイン性と機能性を付与することができ、ひっぱると電気抵抗が変わったり、発光色が変わったりする次世代のストレッチャブル材料が得られます。ハイブリッドゲルを用いたセンサーにより、水中のナノプラスチックの蛍光検出にも成功しています。

元素の新しい周期表の探索

メンデレーエフは元素を分類して周期表を作成しました。一方私たちは、励起元素の特性は周期表から予測される物性とは大きく異なることや、時には周期表上で遠く離れた元素間で逆に共通性が現れることを見出しました。また、高校化学の教科書にも記載があるオクテット則を超えて超原子価という状態に元素をおくと、全く予測していない物性が次々に得られました。これらの新しい元素の特性を解明することと、革新的機能材料として役立てるために研究を行っています。

風土建築の再建プロジェクト、その今日的意義

地球親和技術学廊 人間環境設計論分野
小林 広英 教授(環境デザイン学、地域建築学)

現代社会における風土建築

市場経済の浸透や価値観の変容は、辺境地集落においてもすでに日常化し、地域固有の在来文化や慣習は徐々に消えつつある。特にその地域の風土に培われた土着性の高い伝統住居(風土建築)は、コンクリートブロックやトタン、セメントスレートの新建材が多用された建物へと急速に変貌している。これまでのアジア、南太平洋、西アフリカ各地におけるフィールド調査からも、1970-80年代以降自分たちの伝統住居を建設していないと聞くことが多い。風土建築は、集落共同の自力建設を通して建築技術が世代間伝承されるため、技量に長けた集落住民が高齢化し継承機会のないまま消滅する可能性にある。また建築技術だけでなく、自然と共生してきた集落生活そのものが建築空間には内包されており、多くの伝統的な慣習や儀礼の継承にも影響を与えることとなる。失われつつある風土建築の多様な豊かさは一旦途切れるとその再生は難しい。

集落調査で個々に話を聞くと、伝統住居の必要性や重要性を耳にすることは多い。しかしながら、森林保護政策による資材利用の制限や集落周辺での有用資材の減少、決して経済的に豊かでない集落生活における建設労働提供への躊躇、新建材を用いた現代住居への憧憬など、様々な要因によって実現行動には至らない。しかし、このような状況を危惧する集落のキーパーソンとフィールド調査で出会い、対話を重ねる中で人々の総意として結実したとき、風土建築の再建プロジェクトが立ち上がる。これまでベトナム(2008年、2018年)、フィジー(2011年)、タイ(2013年)、バヌアツ(2017年)で協力・支援しながら様々な課題を乗り越え実施してきた。

風土建築の維持継承

再建プロジェクトの経験から、風土建築は在地資材、伝承技術、共同労働の3 つの要素により建設・維持されてきたとまとめることができる。これらの要素は、集落コミュニティの世代間交流を通じて知識や技術を受け継ぎ、その能力を駆使して森林資源を有効かつ合理的に利用し、豊かな森林の恵みを集落コミュニティが享受する、というような相互に連環した関係にある。また、各要素を地域資源という観点でみた場合、在地資材<地域自然(物的資源)、伝承技術<地域文化(知的資源)、共同労働<地域社会(人的資源)と表現され、全体として地域環境そのものに還元される。これは地域環境の保全により風土建築が成立し、その持続性も担保されることを示す。風土建築を考えることは、建築物だけに止まらず、コミュニティや自然環境、そしてその地域の文化を考えることともつながる。このような風土建築の特質は、時代遅れの過去の産物というより、過度にグローバル化が進んだ現代社会において、「地域アイデンティティ」や「自然との共生」という点で、今後のバランスある地域環境構築に必要不可欠な要素とも捉えることができる。そういった意味で、風土建築の再建プロジェクトは現地や周辺の集落住民だけでなく、私たちの現代の暮らしや住まいにとっても示唆するところは大きい。

地域資源を活かした持続的な発展を目指して

資源循環学廊 地域資源計画論分野
西前 出 教授(地域計画学)

経済発展と共に弱体化する農村

国内外の地域・農村開発に関する研究を、フィールド調査と地理情報システムでの分析を軸として行っています。日本では、農村の過疎高齢化の問題が表面化して既に数十年が経ちます。非常に深刻かつ複雑な背景もあり、効果的な解決法を見つけることは未だに困難です。高度経済成長期にこの地方の疲弊を予測した人はそう多くはいないでしょう。本来は、この時に将来を見据えた方策を考えるべきだったのかもしれません。一方で、東南アジアの途上国の多くの農村では、国自体の経済発展の恩恵もあり、生活水準は上がり、多くの子供たちの笑顔があふれ、幸せそうにみえます。しかし、急速な発展は、日本の高度経済成長を彷彿させる一面があり、私たちは、しっかりと未来を見据えた取り組みを考える必要があります。経済発展は貨幣経済の価値観が農村部にも浸潤してきます。こうした国々の農村では、元々は自給自足的な生活が営まれていましたが、自分たちが食べるものを育てていた場所に換金作物を栽培し始め、そしてより大きな利潤を得るため、単一の作物栽培を集約的に行うこととなります。これらは貨幣を稼ぐポテンシャルを高める一方で、当該作物の市場価格の変化や自然災害に対する脆弱性を高めてしまい、短期間で壊滅的かつ復興不能な被害を与えることがあります。また、農村人口が増えることで、新たな産業が必要となりますが、途上国の多くは都市部の産業が経済をけん引しており、農村の空洞化は人口増の影で着実に進んでいます。

そこに元々あるものを見つめなおす

こうした地域の持続的発展を実現するための一つの方法は、その場所にある「地域資源」を上手に活用することです。これらは、地域の長い歴史を通じて醸成されたもので、その土地の自然や気候との親和性が高く、長くにわたり人々の暮らしを支えてきたものです。しかしながら、経済発展の影で次第に失われていきつつある地域資源は多々あります。具体的には、地域に伝わる祭り、伝統的な作物栽培、焼き畑、などが挙げられます。これらはそれぞれ、エコツーリズム、自給作物の確保、森林の持続的利用、として地域に貢献する可能性を秘めています。地域資源を再考することで地域の底力を上げることができるのです。途上国にも経済発展し豊かになる権利があります。ただ、発展のステージに合わせた適切で持続的な開発を実現していくことが肝要です。地域の人々と話し合いながら実現可能な方策を考えていきたいと思います。

農業における再生水利用の意義と安全性を伝える

地球益学廊 環境マーケティング論分野
吉野 章 准教授(農業経済学)

地球環境学舎の修士の学生は、必修科目として3か月以上の長期インターン研修が課せられています。環境マーケティング論分野の学生は、2015年以来3年間、毎年1人ずつ沖縄県糸満市で検討されている「再生水」の農業利用事業への参加を研修課題としてきました。

この再生水は、京都大学工学研究科の田中宏明研究室を中心に開発が進められてきたものです。下水処理水を限外ろ過(UF膜)と紫外線(UV)消毒で処理することにより、生食用野菜の灌漑にも直接利用できる安全な水を低コストで供給可能にしました。実証地となる沖縄県糸満市の農業は慢性的な水不足に悩まされてきたため、こうした再生水の利用が期待されています。しかも、河川に放流される下水処理水も減らすため自然環境にもやさしいのです。しかしながら、いくら安全な水であっても、それが下水に由来するということで、「再生水を使った野菜が消費者から敬遠されるのでは」という懸念が、事業推進主体の行政や農家にありました。そこで、私たちの研究室に声が掛ったわけです。私たちは、BSE(いわゆる狂牛病)の騒動以来、食品のリスクコミュニケーションを研究テーマのひとつとして扱ってきました。

一般の市民または消費者に対するリスクコミュニケーションは、事業主体側が発するメッセージに対して、みなさんがどう認識し心配されるかを素直に聞くことから始まります。初年度インターン研修生として沖縄県に入った三輪千晴さんは、自身の学部時代に習得した化学系の知識を活かしながら、再生水の意義や安全性を説明するパンフレットやWebページを作成しながら、アンケートを実施し、消費者の声を聞きました。その結果、大半の消費者が、拒絶するほどではないが、何となく不安を感じること、そしてその不安が、食中毒ではなく、見落とされているかもしれない有害化学物質や想定外の事故のリスクに対してであることがわかりました。この結果は、病原性大腸菌やウイルスの除去に腐心されてこられた開発に関わる方々に驚かれました。

次年度沖縄に入った由藤聖利香さんは、農家の協力を得てつくられた再生水利用の野菜の実証販売や再生水について紹介するビデオ映像の作成・主演などを行いながらアンケート調査を実施し、沖縄県産野菜の栽培に再生水を利用した場合、実際の販売にどの程度の影響が出るかを、高度な統計分析を駆使して予測しました。その結果、再生水について説明しさえすれば、野菜の販売への影響は気にするほどではないということがわかりました。

しかし、その説明はどうすれば届くのかということで、3年目のインターン研修生として教育系学部出身の小田実紀さんが沖縄入りしました。小田さんは、広報誌で紹介するだけでなく、糸満市役所のロビーに、再生水の水槽や水耕栽培キットを置き、再生水の説明まで誘導する方法を試行しました。こうした展示の効果は絶大で、近くの人の9割弱に再生水の存在を気づかせ4割弱を再生水の説明まで誘導しました。

こうした調査研究を受けて、糸満市の再生水は事業化に移行することになりました。私たちの役割もほぼ終えたことになりますが、理系・文系と様々な分野出身の学生が、異分野の研究者の方や行政、企業の方と協力しながら、また教わりながら、各々の得意分野の知識・能力を活かしてひとつの事業に貢献し、自らの研究を進められるのは地球環境学舎ならではと思います。