皆様、初めまして、京都大学大学院地球環境学堂所属、矢谷優季です。
京都大学大学院地球環境学堂は2021年10月からアフリカ・マラウイにて、J I C A草の根技術協力事業として、農村住民の収入向上支援を目的としたプロジェクトを進めています。
プロジェクトについて
このプロジェクトでは、農村の未利用資源、つまり使われずに捨てられているものを活用することで、農村住民がお金をかけずに持続的な収入を得られるようにすることを目指しています。
未利用資源の手始めとして、人間のし尿(大小便)に注目しました。し尿分離型ドライトイレ(以下ドライトイレ)を利用し、普段は使われることのないし尿を肥料として利用しようという試みです。このドライトイレはその名の通り大便と尿を分離することで肥料をつくることができるのが特徴で、主に4つのメリットがあります。
し尿分離型ドライトイレのメリット
1つ目は、半永久的に使用できることです。マラウイの人々は一般的に土に穴を掘っただけの穴トイレを利用します。しかし、この穴トイレはし尿が溜まればその穴を埋め、また別の穴を掘る必要があります。家族の人数にも依りますが大体2~4年に1度。新しいものを作らねばならず、手間がかかります。ドライトイレは一度作ってしまえば使い続けることができるため定期的に穴を掘る手間がなくなります。
2つ目は、公衆衛生の改善です。穴トイレは、穴を開けているだけなのでその周りにはハエなどの虫がわいてしまいます。マラウイだけでなくアフリカ諸国ではこうした虫がコレラや下痢などを引き起こす要因になっています。ドライトイレでは、排泄するたびに灰をかけ、ふたをするので、こうした虫がわかず、病気の予防が可能となります。また、穴トイレは便をそのまま土の中に溜めていく仕組みなので、地下水が病原菌などで汚染される可能性があります。ドライトイレではそういった心配がありません。
3つ目は、良い肥料が無料で手に入ることです。マラウイの農村住民は化学肥料を使うのが一般的です。しかし、化学肥料は年々値上がりし、多くの住民が肥料を変えず十分な量の作物を育てることのできない状況が続いています。し尿でできた肥料は土壌にとって必要な養分を十分に含み、化学肥料と同レベルで作物の生育が良くなります。
4つ目は、環境にとって良いことです。地域で利用されずにいたし尿という資源を利用することで、化学肥料への依存を減らせれば、環境中へ過剰な養分が放出されるリスクが低減されることになり、環境の保全につながります。
農村住民の収入向上
今回のプロジェクトではこのドライトイレの建設に加え、更に踏み込んだ活動を予定しています。ドライトイレからできた肥料を活用した作物の栽培方法を教えるだけでなく、栽培した作物の販売促進のためのトレーニングも実施する予定です。農業生産が向上したとしても、必ずしもそれは収入向上には繋がりません。そのために彼ら自身が市場調査を行い、持続的に作物が販売できる体制づくりを支援します。また、寄宿舎付きの高校とも連携を図り、そこで得た肥料を使って住民が栽培した作物を学校に提供するなど、農村住民だけでなく地域全体にドライトイレを広げられるようにします。
このようなことから、今回のプロジェクト名をELSaN としました。 ELSaNはEnvironment(環境), Livelihood(暮らし), and Sanitation(衛生) Nexus (連環)の頭文字から取っています。ドライトイレなど未利用資源の活用を通して、環境、農村住民の暮らし、公衆衛生を三位一体で改善していこうという狙いです。
3年のプロジェクトはまだ始まったばかりです。マラウイの国の言葉にパチョコパチーコという言葉があります。意味は少しずつ。時間がゆっくり進むマラウイで焦らずにパチョコパチョーコに、でも確実にプロジェクトを進めていきたいと思います。